2012年4月6日金曜日

バイオマス変換分野紹介


 

<木質バイオマスからバイオエタノールを生産する研究>

 木材や草本バイオマスを酵素で分解できるようにリグニンと多糖を分離する前処理法として、当研究室では、マイクロ波反応、選択的白色腐朽菌処理、湿式粉砕、爆砕処理などを研究しています。このうち、NEDOの受託研究では、生存圏電波応用分野、鳥取大学大学院工学研究科、日本化学機械製造株式会社、トヨタ自動車株式会社と共同で、マイクロ波反応を利用したバイオエタノール生産研究を実施しています。このプロジェクトでは、リグニンを高効率で分解するマイクロ波反応の開発、3次元電磁界シミュレーションを利用したマイクロ波照射装置の設計開発、などにより、高効率な前処理システムを構築し、糖化液(C5糖、 C6)は遺伝子組換えバクテリアでエタノールに変換します。平成22年度に愛知県トヨタ自動車内に、木質バイオマスからバイオエタノールを生産するベンチプラントを本事業で建設し、前処理からエタノール発酵に至る一貫プロセスの実証試験を産学連携で行っています。

 

NEDOバイオエタノール生産プロジェクト

(京大生存研、鳥取大大学院工学研究科簗瀬研究室、日本化学機械製造、トヨタ自動車)

 


植物は必要ですかどのくらいの光

バイオエタノール生産ベンチプラント(平成22年にトヨタ自動車内に建設)

 

反 応溶液をヒーターなどで加熱する外部加熱では、反応容器が大型化するほど、また滞留時間が短いほど、伝熱速度がネックとなり効率が低下します。これに対し て、マイクロ波照射は、溶媒自体に直接エネルギーを与えることから、短時間の迅速な反応に対して有利な加熱方法と言えます。マイクロ波照射による溶媒の加 熱効率は、比熱のみではなく、誘電損率によって決まり、加熱に有利な溶媒系が存在します。マイクロ波を吸収する触媒を用いると反応効率がさらに高まりま す。私たちは、バイオマス変換への応用を目的としてマイクロ波を利用した様々なリグニン分解反応を開発しています。分離した多糖は、エタノールの他、メタ ン、機能性高分子などにも微生物を利用して変換します。一方、分離したリグニンは構造を精密に解析し、芳香族化学資源として利用します。

 

<電磁波触媒反応を介した植物からのリグニン系機能性高分子の創成>


健康なアフリカスミレを成長させる方法

 CRESTの 研究プロジェクトを開始しました。本研究では、植物細胞壁を固めるリグニンへの親和性と電磁波吸収能を賦与した新規触媒を合成するとともに、周波数を連続 可変させる電磁波化学反応装置を開発し、電磁波の特性を活かした高効率リグニン分離・分解反応系を構築します。また、分岐構造を含むリグニンの精密構造解 析と電磁波反応を組み合わせて、リニア型リグニンの分離法やモノマーへの分解法、精製法を開発し、強度、耐溶媒性、分散性、耐衝撃性、紫外線吸収特性など に優れる芳香族ポリマーに変換します。

(京大生存研、化研、エネ研、日本化学機械製造、花王、帝人との共同研究)


ニンジンが悪くないとき


<選択的白色腐朽菌を利用した木質バイオマス変換>
 自然界では白色腐朽菌と呼ばれるキノコの仲間がリグニンを分解します。特に、選択的白色腐朽菌とよばれるキノコの仲間は、セルロースを残してリグニンを分解する特徴があり、木質バイオマスの変換にとって大変有用です。 国内の人工林は9割以上を針葉樹が占めます。中でもスギは人工林の6割 以上を占める樹種ですが、針葉樹、特にスギ材のリグニンは分解が難しく、例えばスギの爆砕では、酵素糖化率を上げるために有害な硫酸などを併用する方法が 試されてきました。代表的な選択的白色腐朽菌は、スギ材などの針葉樹のリグニンも強力に分解することから、国内の森林バイオマスの変換にとって頼もしい味 方となります。選択的白色腐朽菌処理を受けた木材を直接メタン発酵することもできます。さらに、スギ材を選択的白色腐朽菌処理すると、牛、羊などの反芻家 畜による消化性が向上し、イナワラに匹敵する栄養価値の高い粗飼料に変換されます。これは、未利用のスギ材からおいしい牛肉を生みだす研究です。私たち は、選択的白色腐朽菌のリグニン分解機構を解析・強化するとともに、バイオマス変換に利用する研究を進めています。

<バイオリファイナリーのためのバイオマスの精密構造解析、酵素との相互作用解析>


  セルロース系バイオマスを高効率でバイオエタノールなどに変換するためには、前処理を受けた植物細胞壁と多糖分解酵素との相互作用を理解し、両者を高効率 で反応させることが鍵となります。このため、当研究室では、特異的に糖鎖を認識する様々な糖質結合モジュールと蛍光タンパクとの融合タンパクを大腸菌で発 現してプローブに用い、前処理を受けたバイオマス中の露出した糖鎖の局在や量を解析しています。また、木材など植物バイオマスの全成分を可溶化する方法を 用い、京大エネルギー理工学研究所と共同で超高感度のクライオNMRによるリグニンや糖鎖の精密構造を解析しています。また、Maldi TOF-MSや超高分解能質量分析計(FT-ICR-MS)を用いて、分離したリグニンの架橋構造を解析し、成分分離とリグニン構造の関係や、リグニンの機能性高分子への変換の基礎情報を集積しています。さらに、酵素とリグニンの相互作用も、リグニンや酵素の精密構造をベースに解析しています。

 

バイオリファイナリーのためのリグニンの精密構造解析

 

 

蛍光標識糖質結合モジュールによる露出した糖鎖の定量解析

 


<リグノバイオリファイナリーのための産学連携コンソーシアム>

  芳香族資源として重要であり、バイオマス成分分離の鍵となるリグニンをエネルギー源として利用するのみでなく、芳香族化学資源として利用するための産学連 携研究を進めています。現在、パルプ廃液由来のリグニンは購入できますが、天然に近い構造をもつリグニンの入手は一般に困難です。また、リグニンの化学構 造解析も専門的であり、機能性高分子などへの変換研究を始めることは容易ではありません。石油化学産業では、様々な企業がネットワークを作って多様な化学 製品に変換していることから、バイオマスの変換、特にリグニンの変換においても、原料供給から成分分離、多様な変換の連携組織が必要と考えます。現在、業 種の異なる複数の企業にリグニンのサンプル供与を行い、連携を図っています(問い合わせ歓迎)。

 



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